飼い猫が病院で口内炎と診断され、治療には抜歯手術も必要と言われましたが痛そうでかわいそうです。他に治療方法はないのでしょうか?

ペット大好き!芦屋のシエル動物病院の木村院長のコラム更新!

おそらく猫の尾側口内炎、あるいは難治性の口内炎と呼ばれるものだと思います。口腔尾側粘膜が赤く腫れあがり、口の痛みはかなりひどく、食事も取れず、口を触ろうとしただけで暴れ狂うぐらいの子もいます。口腔尾側粘膜というのは上下の最後臼歯のさらに奥の粘膜の部分で口を大きく開けると観察できます。その部分が左右対称性に赤く炎症を起こしているのがこの病気の特徴のひとつです。

原因はまだ解明されていませんが、口腔内の細菌やウイルスが関連し、それら病原体に対して自身の免疫が過剰に反応した結果引き起こされるとされています。症状としては、とにかく口の中が痛いので、食事を思うように取れず栄養不良状態になったり、水も飲めないので脱水症状を起こしている場合もあります。毛づくろいもできないので毛並みも悪くなります。

治療は、様々な鎮痛薬、抗生物質、インターフェロンやサプリメントが投与されますが、薬だけで完治させるのは困難なことが多く、一時的な症状緩和にとどまることがほとんどです。口の痛い猫に内服薬を投与するのも実際難しいので、それも内科治療が上手くいかない理由のひとつです。外科的治療として、全臼歯抜歯、つまり全ての奥歯を抜歯するという方法と、全顎抜歯という全ての歯を抜く方法があります。これは、歯が無くなることで長期的に歯垢や口腔内細菌の増殖、口腔粘膜の異常な免疫反応を抑えるためのものとして実施されます。治療成績はというと、全臼歯抜歯を行った症例の65~80% 全顎抜歯を行った症例の80~93%に何らかの改善がみられたとの報告があります。この報告での “何らかの改善“ には内科的治療が完全に必要なくなり完治したという症例だけでなく、内科的治療の頻度が減る程度だったという症例も含まれていて、外科治療後の改善にも幅があるということが言えます。また、術後すぐに改善がみられるわけではなく、術後も内科治療を続け、数か月後にようやく改善に至ることも多いのです。

手術は痛そうでかわいそう、というのはもっともですが、今の痛みは治療しないとずっと何年も続きます。手術による痛みはそれに比べると数日ですし、術後の疼痛はほとんどの場合お薬でコントロール可能です。
上述のように手術によってすぐに口内炎の痛みがなくなるわけでもなく、すべての猫ちゃんの痛みが完治するというわけでもありませんが、食べられないほどの痛みを抱えている、薬で改善が見られない場合は手術を考えてみていいのではないでしょうか。最近では歯科専門の病院も各地で増えてきていますので、経験豊富な専門病院で相談することをおすすめします。