保護した猫の里親になりました。腹部がぽっちゃりしているので動物病院に連れて行くと、FIPという検査結果でした。治療は難しいと言われましたが、治る可能性はあるのでしょうか?

ペット大好き!芦屋のシエル動物病院の木村院長のコラム

FIPは猫伝染性腹膜炎の略で、猫コロナウィルスの感染症が原因となり発病します。ヒトのコロナウィルスとは別物なので人に感染することはありません。地域差はあると思いますが一般の病院では年に1度、診断されるかどうかというぐらいの遭遇率で決して頻繁にみられる病気ではありません。私の経験では多くは保護された猫でみられ、ペットショップやブリーダーで購入された猫ではあまりみられないと思います。

猫コロナウィルスは糞便を介して猫から猫へと感染します。感染してもほとんどの猫は

一過性の感染で済みますが一部の猫では持続感染します。感染した猫コロナウィルスが感染猫の体内で遺伝子変異を起こし、激しい炎症を伴うFIP、つまり伝染性腹膜炎を発症することになります。つまり、猫コロナウィルスに感染した猫すべてがFIPを発症するわけではないということを知っておいていただきたいと思います。

FIP発症猫の60%が2歳未満とされており、症状は、元気食欲の消失、発熱がみられ、腹水や胸水の貯留が見られるものをウエットタイプ、液体貯留のみられないものをドライタイプと区別することが多いです。ドライタイプでは神経系の異常として、けいれん、異常行動、運動失調、四肢の麻痺などがみられることがあります。それ以外にも眼内の炎症であるブドウ膜炎などの眼症状がみられるタイプもあります。

診断は特徴的症状と各種検査で容易に診断できる場合もありますが、とくにドライタイプの場合は確定診断が難しいこともあります。

FIPは致死性の高い病気の一つで、過去にも様々な治療が試されてきたのですが完治に結びつく治療はありませんでした。しかし2018年に抗ウィルス薬を用いたFIPの寛解例が報告されたのをきっかけに、いくつかの治療が試みられるようになり、治療が可能になってきています。

これら抗ウィルス薬を用いた治療により、数日以内に発熱や元気食欲の改善がみられ、2週間程度で腹水や胸水の減少が認められます。症状の改善がみられても治療は84日間の投薬が最低必要とされています。改善が乏しい場合には治療をさらに延長することもあります。

FIPの治療が可能というのは飼い主さんにとっても、我々獣医師にとっても朗報なのは間違いないのですが問題点もあります。いずれの抗ウィルス薬も輸入薬のため獣医師が個人輸入する必要があり、入手までに時間がかかるということ。ジェネリックでさえ、薬自体が大変高額なので、使用期限のことを考えると数年に一度遭遇するFIPの患者のために病院にストックしておける薬ではなく、現状ではストックのある病院でのみ治療可能であるということ。治療期間も長期にわたるので飼い主さんにとってかなり高額な治療になるということが挙げられます。

高額かつ治療も長期に及びますが、FIPの猫が助かるようになったのは本当に朗報だと思います。薬が安価になり、かつ国内でも容易に入手できるようになれば、さらに救命率は上がると思います。