ヒトの医療でも問題とされている抗生物質の耐性菌というのは動物でもあるのですか?
動物病院でも抗生物質は毎日使用する薬ですが、この数年、私自身も抗生物質の効きが悪い症例が増えてきていると感じています。たとえば皮膚の細菌感染症の代表ともいえる膿皮症。私がこの仕事を始めたころは、膿皮症と診断したらとりあえずセファレキシンという抗生物質を2週間以上与えること、というのが日本だけでなく世界の定法でした。これは数十年前にとある著名な皮膚病の権威が提唱した方法らしいのですが、その当時は動物では耐性菌は生じない、などという考えもあったようです。たしかに診断さえ間違っていなければそれでほとんどの膿皮症を治せていたのも事実ですが、最近ではその薬で治らない症例が増えている、つまりあまりにもその薬を使いすぎたので耐性菌ができてしまっているようです。細菌性の外耳炎もそうです。若いころから外耳炎を繰り返し、いろんな抗生物質を使っている場合、細菌感受性試験をしてどの抗生物質が効くか調べても効果的な薬がなかなか見つからないということが結構あります。こういった耐性菌がどんどん増えてくると、いざ命にかかわるような肺炎などの感染症を患ったときにどの抗生物質も効かず、治療できなくなる可能性も示唆されるようになっています。
そのような理由から人の医療と同じく最近では、できるだけ不要な抗生物質は使わない、使っても短期間のみ、という方向性に変わってきています。たとえば前述の細菌感染による皮膚病なども希釈したヒビテンなどの消毒液を患部に塗布する方法で治療するようにし、極力抗生物質の使用を減らすというようなかんじですね。ただ、耐性菌を恐れるがあまり治療の機会を逃すというのは病状の悪化につながるので、適切な抗生物質の使用を心がけることが大事だと思います。