ロスト・チルドレン

昨今はハリーポッターシリーズや指輪物語のヒットにより、ファンタジー映画が数多く作られるようになりました。しかし、魔法使いや龍がでるものだけがファンタジー映画だと誤解している人も少なくないようです。ファンタジー映画のファンタジーたる所以は、作品中に異世界を創り上げることにあり、もっと幅広いものなのです。今回ご紹介する「ロスト・チルドレン」はそんなファンタジー映画の良作です。
暗く冷たい不思議な街。夜な夜な子供達をさらって海上の城へと連れ去る一味がいます。この一味に弟をさらわれた大男ワンは、こそ泥で日々の糧を得る少女ミエットと共に弟を探し始めます。様々な困難を越えて、ワンとミエットは機雷にかこまれた海上の城へと向かいます。
こうして粗筋を書くのに困惑するほど、本作は独特な世界を構築しています。薄暗く絶えず雨がふる港町や海上にそびえる不気味な城などの、物語の舞台となる背景に加えて、登場人物も超個性的。孤児院を経営するシャム双生児、ノミを操る男、片目に機械をつけた一つ目教の人々、怪しげな実験を繰り返す海上の城の面々など、狂気と奇妙な物悲しさを感じさせる人々ばかりです。本作の最初の魅力は、この異世界そのもので、隅々まで作りこまれた異世界の風景が本作の不思議な雰囲気を支えています。こうした奇妙な舞台で描かれる、子供のような心をもつ大男ワンと孤独で大人びた少女ミエットの交流は、かえってリアルな暖かさを感じさせるものになっています。
監督のジャン・ピエール・ジュネは「デリカテッセン」など、独特の画面つくりに定評があり、熱心なファンも多い名監督です。
美術監督のマルク・キャロは「デリカテッセン」でもジュネ監督とコンビを組んでおり、本作でも独特の世界を作り上げています。また、衣装デザインはなんとジャンポール・ゴルチェが担当し、異世界の構築に一役買っています。
怪力の大男を演じたロン・パールマンは、脇役が多いにもかかわらず、個性的な顔立ちで「名前は知らないけど見たことがある」役者さんの代表格です。(新作「ヘルボーイ」ではその巨体を買われて、主役のヘルボーイを演じています。これで名前も有名になるかもしれませんね。)
本作ではおつむは足りないものの、純真な子供の心をもつ大男を好演しています。また、少女ミエットを演じたジュディット・ビッチはとても子供とは思えない上手い芝居を見せてくれます。妙に大人びた表情は、本作の出演陣の中で一番印象に残ることでしょう。
さて、本作はあまりにも独特な世界観と設定のために、ハリウッド製のわかりやすい映画に慣れた人には、わかりにくい部分も多いかと思います。細かなストーリーや登場人物の目的など、一見理解しにくい部分も少なくありません。ですが、本作のようなファンタジーをご覧になる時は、細かいこだわりを捨てて、まずその世界にどっぷり浸かる感覚でご覧になることをお勧めします。
ファンタジー映画の第一の楽しみはその異世界にこそあるのですから。
CINEMA DATA
1995年制作
【配給】 | エース・ピクチャーズ |
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【監督】 | ジャン・ピエール・ジュネ |
【出演】 | ロン・パールマン |
ジュディット・ビッテ |
パイオニアLDCよりDVD発売中
©Eiga-zaru 2004-2018
※掲載している情報は、2006.03.01の情報です。
そのため記載内容が、最新のものと異なる場合があります。
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